遺言と、その後の手続きをつなぐ
遺言を実行する人、「遺言執行者」とは?
「家は娘に」「実家を売った代金を子どもたちへ」。遺言に残した希望を、実際の手続きへつなぐ役割が、遺言執行者(ゆいごんしっこうしゃ)です。相続人との違い、選び方、死後の流れを、住まいの具体例から整理します。
遺言の内容と法律に沿って動く役割です。すべての遺言に執行者が必須という意味でも、財産のことを何でも自由に決められるという意味でもありません。
情報確認日:2026年10月12日
遺言を手続きにつなぐ
相続人との役割の違い
資料と費用まで備える
01 ROLE
遺言執行者とは?遺言の内容を実行する担当者
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理や必要な手続きを進める人です。本人が遺言を書いても、口座や不動産の名義が自動的に変わるわけではありません。遺言と、その後の実務をつなぐ役割があります。
遺言を書く人、実行する人、財産を受け取る人を分けて考えると、理解しやすくなります。
遺言を書く本人
財産の渡し方などを、適切な方式の遺言で定める。
遺言執行者
遺言の内容を実現するため、必要な管理や手続きを進める。
相続人・受遺者
法律や遺言に従って、財産を受け取る立場の人。
相続人と執行者を同じ人が兼ねる場合もあります。役割を分けて考える当社の図解です。
出典:e-Gov「民法」
「遺言者」は遺言を書く本人。「受遺者」は遺言によって財産を受け取る人です。相続人が執行者を兼ねる場合もありますが、財産を受け取る立場と、実行を担う立場は区別します。
執行者という肩書だけで、遺言にない財産を自由に売ったり、渡す相手や割合を変えたりできるわけではありません。遺言の内容と法律に沿って、どこまで任せられているかを確認します。
02 DIFFERENCE
相続人の権利と、執行者の役割は別です
「財産を受け取る人だから、執行者にもなる」「親族なら何でも代わりにできる」とは決まりません。似た立場でも、選ばれ方や権限が違います。
| 立場 | 主な役割 | 混同しないポイント |
|---|---|---|
| 遺言執行者 | 遺言を実現するための管理と手続きを行う。 | 肩書だけで、遺言の内容や配分を自由に変更できるわけではない。 |
| 相続人 | 相続する立場で、権利・義務や手続きに関わる。 | 執行者がいるだけで、相続人の権利が消えるわけではない。 |
| 任意代理人 | 本人から与えられた権限の範囲で、本人に代わる手続きを行う。 | 生前の委任状があるだけで、死後の遺言執行まで任されたと判断しない。 |
| 相続財産清算人 | 相続人の存在が明らかでない場合などに、家裁の選任を受け管理・清算を進める。 | 遺言執行者とは、選ばれる事情や目的が違う。 |
民法に基づき役割を整理した当社の比較です。個別の権限は、遺言・契約・選任の内容で確認します。
出典:e-Gov「民法」
遺言執行者がいる場合、相続人は、遺言の執行を妨げる財産処分などをすることができません。一方、執行者がいるだけで、相続人の権利がすべて消えるわけではありません。 不動産の相続登記など、相続人自身ができる手続きも内容別に確認します。
成年後見人や家族信託の受託者も、遺言執行者と同じ役割ではありません。生前の暮らしや判断能力低下への備えと、死亡後の遺言執行を分けて検討します。
相続人の権利、遺言の有効性、遺留分、債権者との関係に疑問があれば、遺言と財産の資料を示して法律の専門家へ相談しましょう。
03 PROCESS
通知、財産目録、必要な実行、報告を担う
引き受けて任務を始めた執行者には、相続人への遺言内容の通知、相続財産の目録の作成・交付など、法律で定められた仕事があります。財産を注意深く扱い、経過や結果を説明できる記録を残すことも大切です。
遺言を確認
所在・方式・内容を調べ、検認が必要かを確かめる。
就任を確認
指定と引受けを確認。不在なら必要に応じ、家裁の選任手続きを調べる。
通知・財産目録
相続人へ遺言内容を通知し、財産を調べ、目録を作成・交付する。
内容に沿って実行
権限を確認し、管理・登記・預金等の必要な手続きを進める。
引渡し・交付
財産を引き継ぐ。売却を行う遺言なら契約・決済と必要な精算へ。
報告・完了整理
経過・支出・結果を報告し、完了と残る別の手続きを整理する。
財産の承継を想定した説明用の整理です。必要な手続きと順序は、遺言・財産・家族関係によって変わります。
出典:e-Gov「民法」
「財産目録」は、相続財産の内容を整理した一覧です。登記・預金・契約等の資料を確認し、支出や財産の引渡しについても、根拠の分かる記録を残します。目録を作ることと、故人の債務を誰が負担するかは別に確認します。
遺言の検認と、実行は違う手続き
公正証書遺言と、法務局の保管制度を利用した自筆証書遺言は、家庭裁判所の検認が不要です。検認は、遺言の有効・無効を判断する手続きではありません。封がされた遺言を見つけた場合などは、開封する前に裁判所の案内を確認します。
相続又は相続人への遺贈によって、不動産の所有権を取得したことを知った日から、原則3年以内に登記が必要です。2024年4月1日より前に相続等による取得を知っていた未登記不動産は、原則2027年3月31日まで。執行者の指定だけで、この期限が止まるわけではありません。
相続放棄や税申告等も、遺言執行と別に必要性・期限・担当を確認します。登記の詳細は法務局の相続・遺贈登記の案内で確認できます。
04 PROPERTY
自宅を渡す、売る、共有する。確認点は変わる
不動産では、遺言の文言と名義に加え、住む人、借入、共有、建物の状態などが実行に影響します。執行者の指定と、不動産が実際に引き継げる条件を一緒に考えます。
そのまま引き継ぐ
遺言の文言、名義、土地・建物・持分、必要な登記と管理を確認。
売って代金を渡す
売却の権限、渡し先、管理・費用・税、売れない場合まで確認。
共有・住む人がいる
本人以外の持分、家族や賃借人の権利、残る人の暮らしを確認。
当社が整理した検討の分岐です。執行者の指定だけで、登記・売却や他の人の権利の問題が解決するものではありません。
出典:e-Gov「民法」
例1 自宅を、そのまま娘へ
親が「自宅を娘に相続させる」と遺言に定め、別の人を執行者に指定する場面です。執行者がいることだけで、娘が登記を一切できなくなるわけではありません。遺言の文言、名義、土地・建物・私道や持分、必要な申請方法を確認します。
「執行者が手続きを進める」と「執行者が個人的な所有者になる」は別です。執行者の名義へいったん移す、と一律に考えません。
遺言で財産を与える「遺贈」の登記にも、受け取る人による違いがあります。相続人への遺贈では、2023年4月1日から、受け取る相続人が単独で所有権移転登記を申請できます。相続人以外への遺贈は、原則として共同申請です。遺言の文言と相手の立場を区別し、必要書類と申請方法を確認します。参考:法務局「相続人に対する遺贈による所有権移転登記ハンドブック」・1、8頁。
例2 実家を売り、代金を子どもたちへ
遠方の子ども2人は実家を使う予定がなく、親は死後に売却し、費用等を整理した代金を渡したいと考えています。こうした方針は、清算型遺贈と呼ばれる方法として検討できます。対象、渡し先・割合、執行者の売却権限、費用、売れない場合の扱いを具体的に相談します。
買主は遺言だけで決まりません。売却までの管理、当面の資金、名義・担保・境界、家財、登記と税も確認します。
例3 共有者や、住んでいる家族がいる
親子で共有する自宅に配偶者が暮らし、親は売却を遺言に定めたい場面です。本人の遺言だけで、子の持分まで処分できるとは考えません。居住者・賃借人等の権利と暮らし、必要な同意や契約も確認します。
売却の希望と、残る人の住まいを、本人が元気なうちに相談します。共有・道路・境界・過去の登記などの問題を、遺言の文言だけで解決したことにしないようにしましょう。
参考:e-Gov「民法」第1012条・第1014条など、法務局の相続・遺贈登記の案内。登記・清算型の扱いは遺言と権利関係に応じ、司法書士・法律の専門家・税理士等へ確認します。
05 CHOOSE
家族か専門家か。信頼と、実際に担える体制を確かめる
遺言で執行者を指定することができます。指定された人が引き受けられるかを、生前に相談しておくことが大切です。遺言を書いたことだけで、担当者が自動的に現れるわけではありません。
家族・相続人も候補になれますが、未成年者や破産者は執行者になれません。財産の種類や、仕事の負担、家族関係を踏まえて選びます。
| 候補 | 先に確認すること |
|---|---|
| 家族・知人 | 就任意思、健康・時間・距離、資料を扱う力、専門家へ相談する体制 |
| 弁護士・司法書士等の専門家 | 財産と仕事に合う資格・業務範囲、担当者、報酬と実費、登記・税務等の連携 |
| 法人・金融機関等のサービス | 誰が実際に執行するか、保管と執行の契約範囲、死亡の連絡方法、別料金・追加業務 |
「専門家」「遺言信託」という名称だけで、すべての仕事が含まれると判断しません。家族が引き受ける場合も、必要な専門業務の相談先を確認します。
執行者がいない、又はいなくなった場合
利害関係人が家庭裁判所へ選任を申し立てる手続きがあります。裁判所が自動的に誰かを派遣するものではありません。候補者が先に亡くなる、辞退する、事情が変わる場合の備えも、遺言の作成時に相談しましょう。
参考:e-Gov「民法」第1006条・第1009条・第1016条、裁判所「遺言執行者の選任」、日本公証人連合会「遺言」。古い遺言では、作成時期に応じた経過措置も確認します。
06 COST
費用は、執行の報酬と実際の手続きを分けて確認する
執行者の報酬には、全国一律の法定料金はありません。遺言で報酬が定められていない場合、家庭裁判所が相続財産などの事情に応じて報酬を定めることができる規定があります。
依頼先へは、総額だけでなく、対象財産、含まれる仕事、別料金、立替えと精算の方法を確認します。
| 費用の区分 | 聞いておきたいこと |
|---|---|
| 執行者の報酬 | 遺言・契約の定め、計算対象と時点、最低額、税の表示、追加業務 |
| 手続きの実費 | 証明書、郵便、交通、登記の税・必要な手数料など |
| 専門業務と不動産 | 登記、税申告、紛争対応、仲介・管理・家財整理等が含まれるか |
| 先に必要な資金 | 売却前の管理費、立替え、支出の記録、精算と長期化した場合 |
遺言の執行に関する費用は相続財産の負担とされますが、それによって遺留分を減らすことはできないという規定もあります。財産から支出する方針と、実際に支払える資金や時期を、内容に応じて確認します。
売却額と、そのまま渡せる金額も同じではありません。報酬、実費、管理費、税・借入などの扱いを、担当する専門家とすり合わせましょう。
参考:e-Gov「民法」第1018条・第1021条。この表は相談項目の整理で、全国共通の料金表ではありません。
07 RESPONSIBILITY
指定された後の断り方と、任務に問題があるとき
就任前の辞退と、就任後の辞任は違います
指定を受けても、就任前に引き受けない意思を伝えることはできます。ただし、利害関係人から相当の期間を定めて就任するか答える催告を受けた場合、期間内に相続人へ返答しないと、承諾したと扱われます。引き受けないつもりでも、催告を放置しないことが大切です。
就任を承諾した後の辞任は、正当な事由と家庭裁判所の許可が必要です。単に家族へ「今日でやめる」と伝えれば済む、という扱いではありません。
任務を怠るなどの問題があるとき
利害関係人が家庭裁判所へ解任を請求する制度があります。説明や目録がない、手続きが止まっているなど、気になる事実と資料を記録し、法律の専門家へ相談します。疑問があることと、解任が認められることは同じではありません。
家族の揉めごとを裁く役割ではありません
執行者は、遺言の有効性や相続人の争いを裁判官のように決める人ではありません。遺留分、借金、共有、居住者の権利の問題も、指定だけで消えません。必要な交渉や訴訟などは、権限に合う法律の専門家へ確認します。
葬儀・納骨、生活上の契約、遺品の処分、税申告なども、肩書だけで当然すべて含まれると考えず、遺言執行と別に依頼する死後の仕事を整理します。
08 PREPARE
希望だけでなく、人・資料・資金・連絡を残す
「家をどうしたいか」と「死後にどう実行するか」を一緒に考えます。すべての資料がそろっていなくても、分かるものから整理しましょう。
- 希望:誰に何を遺したいか。住み続ける人、売却を考える理由、残したい品。
- 人:家族・受取先の連絡、執行者候補の就任意思、法律・登記・税務の相談先。
- 不動産:登記・課税明細、購入時の契約、図面・測量、借入・担保、賃貸借、管理と保険。
- 実行条件:当面の管理資金、報酬と実費、売れない場合、記録・報告の方法。
- 保管と連絡:遺言の所在、死亡を執行者へ知らせる方法、鍵や原本を安全に引き継ぐ方法。
エンディングノートと、法的な遺言を区別する
家族への思いをメモに残すことは、話し合いの助けになります。ただし、そのメモが適切な方式の遺言や、財産を処分する権限として、そのまま使えるとは限りません。本人の意思と財産に合う内容を、法律の専門家や公証人等へ相談します。
転居、物件の売却、家族・受取先・候補者の事情が変わったら、遺言と資料を見直します。預けた先が、保管だけか、死後の執行まで引き受けるかも確認しましょう。
参考:日本公証人連合会「遺言」。資料の整理手順は、当社による検討の提案です。
09 CONSULTATION
住まいの方針を、法律・登記・税の相談につなぐ
住まいの将来と、遺言の内容を、同じ資料と希望を使って相談すると、必要な担当が見えてきます。
| 相談したいこと | 主な確認先 |
|---|---|
| 遺言の方式・公正証書 | 公証人・公証役場。内容に応じ法律の専門家とも相談 |
| 遺言の解釈・執行、相続・紛争 | 対応する法律の専門家。紛争・交渉・訴訟代理等は業務権限に合う弁護士等 |
| 相続・売却の登記、名義のつながり | 司法書士・法務局等。境界・測量は土地家屋調査士等 |
| 相続や売却の税・申告 | 税理士・税務署など |
| 管理・活用・売却、実家じまい・住み替え | 終活専門不動産等、不動産の相談窓口 |
終活専門不動産で相談できること
「家族は実家を使わない」「管理を任せる人がいない」「売却を遺言に書く前に、物件を調べたい」。当社では、住まい・不動産の資料と希望を整理し、管理・活用・売却、住み替えの選択肢をご相談いただけます。
当社は、住まい・不動産の希望と状況を整理し、必要に応じて各分野の専門家と連携しながら、次の相談へつなぎます。遺言の作成・解釈・執行は法律の専門家や公証人、登記は司法書士、税務は税理士など、内容に対応する担当へ確認して進めます。
ご相談の前に
遺言執行者について、よくある質問
遺言の内容や財産、家族関係によって、必要な手続きは変わります。
遺言執行者は、必ず決めないといけませんか?
すべての遺言で一律に必須というわけではありません。遺言の内容によって必要となる場面や、実行する人を決めておくとよい場面があります。誰が何を進めるかを、遺言案と財産を示して確認しましょう。
子どもなど、財産を受け取る人も執行者になれますか?
相続人だからという理由だけで、執行者になることが禁止されるわけではありません。ただし、未成年者や破産者はなれません。仕事の負担、他の家族への説明、利益の対立の可能性なども確認します。
遺言に名前があったら、断れませんか?
就任前に辞退することはできます。ただし、正式な催告を受けて期間内に相続人へ返答しないと、承諾したと扱われます。就任を承諾した後の辞任は、正当な事由と家庭裁判所の許可が必要です。
指定された人が先に亡くなっていたら、どうなりますか?
執行者がいない、又はいなくなった場合、利害関係人が家庭裁判所へ選任を申し立てる手続きがあります。裁判所が自動的に誰かを派遣するものではありません。生前には代わりの候補等も相談できます。
公正証書遺言なら、執行者は不要ですか?
遺言の方式と、死後の実行担当は別の問題です。公正証書遺言は検認が不要ですが、財産の引渡しや必要な登記・売却等まで自動的に終わるわけではありません。遺言に合う役割と担当を確認します。
執行者がいると、相続人は登記もできませんか?
一切できないわけではありません。特定の不動産を相続させる遺言、相続人への遺贈など、内容によって申請方法が変わります。遺言の文言と名義を、司法書士・法務局へ確認してください。 遺言の作成時期による経過措置もあるため、古い遺言は現在の執行者の権限をそのまま当てはめません。
執行者がいれば、実家はすぐ売れますか?
売却を進める権限と、実際に買主が見つかる条件は別です。名義・共有・担保・住む人・物件の状態、管理費と当面の資金を確認します。遺言や指定は、価格・期限・売却成立を保証するものではありません。
執行者への費用には、登記や税申告も含まれますか?
依頼先と契約によります。執行の報酬と、証明書・登記等の実費、登記・税申告・仲介などの別業務を分けて説明を受けましょう。追加費用と立替え・精算の方法も確認します。
葬儀・納骨や遺品の片付けも、全部頼めますか?
執行者という立場だけで、当然にすべてが依頼に含まれるわけではありません。執行に必要な管理と、別に依頼する死後事務や家財整理を分け、権限・契約・担当と費用を確認します。
執行者の説明がない、動いてくれないときは?
通知、財産目録、経過や支出の説明を確認し、疑問を記録して伝えます。任務を怠るなどの事情がある場合には、家裁の解任手続き等を検討することもあります。資料を持ち、法律の専門家へ相談してください。
遺言を考える前に、住まいの引き継ぎ方を整理しませんか。
ご自宅やご実家を、誰が使い、誰が管理し、将来どうするか。分かる範囲の資料とご希望から、不動産の方針をご一緒に整理します。遺言・登記・税務の判断は、担当する専門家へ確認します。